悲劇のヒロイン
発見した日とその翌日は、ショックで衝撃で、とにかく動画のコピーをとって保存して相手の個人情報を少しでも集めようと躍起になったのだけれど、不思議と怒りも哀しみもなかったように思う。
いや、あったかな。でも、それよりも、こんなにもはっきりとした証拠を大量に残している愚かさみたいなものに、ざまあみろと思っていたかもしれない。
リセットになったと告げた土曜の夜から、悲しみをやっと認識するようになった。
人間の感情は不思議だな、と思う。
人工授精がダメならば、体外受精に進もう、その前に卵管を通す手術だ、お金がかかる、という話をしていたときに彼は「やるしかないし、やるなら早いほうが」と言っていた。その時に話していた、40歳を超えると3回までしか受け取れない、30代なら6回、という助成金の話。私はもう40を超えているのだから、これはつまり私を責めているのだと、今の私は受け取ってしまう(時間が経過して、客観的にみれるようになったらどう感じるか、変化するのか楽しみ)。
彼は、もしもこのまま不妊治療を続けても子どもを授からなかったら、きっと私のせいだと思い続けるんだろうと思う。そう思われ続けることに私は耐えなければならないのか。そんな人と添い遂げたいか。
子どもを作る気になれない理由のひとつは彼に収入がほぼなかったことがあるのだけれど。
以前話した時、いざとなったら金なんてどうとでもできるんだから、と言っていた。本気で言ってるんだろうな、と思う。
だから悪いのは俺じゃなくてお前。
それが彼の理屈だろう。
彼は不妊治療を勧める方向の話をしていたけれど、かかるお金、時間のことを考えたら、離婚するならばそれらはもったいないと思う。
彼が再構築をする気が本気であるのか(彼は不倫がばれているとは思っていないだろうから、再構築という認識は私にしかないものだけど)、本当に私と一生添い遂げたいと今でも思っているのかの話し合いをしなくてはいけない。
卵管を通す手術を受ける決断の前に。
悲しみがやってきたときに、悲劇のヒロインぶるのだけはやめよう、と思った。彼が不倫したことには理由がある。それは私があまりにも彼をないがしろにしてきたからだ。それは痛いほどわかっている。だって、それでいいのだ、と思っていたのだから。彼もそれで幸せなのだと私は心の底から信じていた。仕事をバリバリやって、友人たちと遊んでいる自由な私のことを彼は好きなのだと、本当に単純に思っていた。ずーーーっと。
だから、彼がほかの人に走ったことには納得もいく。
でも、だからって不倫を許すわけではない。だったら離婚しようと言ってくれれば良かったのにと思うから。
今思えば、彼はずいぶんと前から「俺がいる意味はなんなの」というようなことを言っていた。そのことを思うと胸が痛い。ずっと孤独だったのだろうと思う。
そのことは本当に申し訳ない。彼を全然見れていなかったのだと思う。
でも、不倫を知った今となっては、離婚するとなったら彼を有責として慰謝料を取れるだけ取るよ、と思ってもいる。私はたしかに彼を大事にしていなかった。でも結婚後に彼を裏切ったことは一度もない。
私は悲劇のヒロインではない。たくましく生きる、40歳の現代日本の女性でありたい。